4月 2003

2003年4月〜5月のウィーン日記









5.26 2425日と続けて聴いたチューリヒ・トーンハレ管は、音の柔らかさに驚いた。ウィーンも柔らかいけど、それとは種類の違う柔らかさ。まず初日のベー トーヴェンの2番は、弦楽器の肌触りの優しい音に、ナチュラル・ホルンとナチュラル・トランペットの強い響きがマッチして面白い。さらに硬めの(木かな) バチで叩くティンパニが気持ち良いアクセントになって、音楽の要所を締めていた。大地の歌は夕暮れどきの1番眠い時に当たってしまい、起きているだけで必 死。記憶に無い。 翌日の朝11時からは「謝肉祭」序曲で目が覚め、ゴルトマルクのヴァイオリン協奏曲はジョシュア・ベル独奏。この曲、古典的な作風で、型通りのソナタ形式 やフーガなんかもあるけど、2楽章は美しいが、他の楽章は今一ぱっとしない。ベルが弾くんだから、他の曲が聴きたかった。後半はシューマン、と思っていた らベートーヴェンの7番が始まった。昨日と同じアプローチだが、今日の方がオケもかなりノッてる感じ。1・2楽章をアタッカでつなげて演奏するのは何か意 味があるのかな?デュトワも同じことを以前やっていた。アーティキュレーションをハッキリ出したり、スコアにかなりこだわってボウイングを付けた後が伺え る。バロック・オケじゃないのにこのこだわりよう。最近はヨーロッパ室内管やドイツ・カンマー・フィルなどの室内オケで、バロック風のアプローチを試みる のは当たり前になってきたが、フル・オケ、しかも伝統あるトーンハレ管が新たな表現を求めている時代になったのだ。先日のウィーン響でもナチュラル・ホル ンでベートーヴェンを吹いていたし、世の中どんどん変わっていっているのだ。 その日の夜は三度ムジークフェラインで、アーノンクール指揮コンツェントゥス・ムジクスを聴いた。本家バロック・オケでメインはシューベルトの1番。その 前にトーマス・ハンプソン独奏のベートーヴェン、モーツァルト、シューベルトのアリアを5曲、1曲目はモーツァルトの『音楽の冗談』だったが、これが絶 品!アーノンクールがステージに登場したときから何となく芝居がかっていたが、案の定、コンマスとは嫌々握手するし、関係ないセカンドの女性やホルン奏者 とは嬉しそうに握手。ホルンは指揮台より客席側に客席に背を向けて2人座っている。途中のホルンが和声を壊す場面では、アーノンクールがハンカチを目に当 てて泣いてみたり、ヴァイオリンのカデンツァではコンマスとの無言の駆け引きが会場の爆笑をかっていた。それなのに、一度音楽が流れればモーツァルトが存 在している。 その後すべて聴き終わった後に残ったのは、見事にアーノンクールの世界。モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトとそれぞれの作風や音楽がきっちり描 き分けられていた。これだけ近接した時代の音楽を表現しきるアーノンクールって何者?この演奏会は一生忘れないと思う。

5.23 今週は立て続けに演奏会の他、友人の発表会(打ち上げ付き)や指揮科学生のための寄せ集めオケの手伝いなど、充実していた一週間。それに加えてラジオの放 送でもいくつか興味深い演奏があって忙しかった。特に良かったのがアルテミスQにカクシュカとエルベンが加わったブラームスの弦楽六重奏曲第2番。この組 み合わせを昨年12月にコンツェルトハウスで聴いているが、今回の放送はそれの前後に行われたケルンでのライブ録音。改めて聴いてみて、恐ろしいまでの完 成度と興奮度に以前の記憶がよみがえってきた。これは家宝になる。それともう一つ、フランクフルト放送響のシューマンの2番。指揮はウルフだったかな。颯 爽としたテンポで一気に聴かせた感じだが、見事にオケがはまっている。シューマンは弾いてるとついつい興奮してしまう物が多いが、2番は特にそう。それを ドイツのオケが弾くんだからねえ、やっぱり盛り上がっちゃうんだよねえ。この二つの演奏会を取っ換え引っ換え、毎日聴いている。 明日と明後日はチューリヒ・トーンハレ管とコンツェントゥス・ムジクス・ウィーンの演奏会を聴きに行く。曲はどれも好きなもの。トーンハレはベートーヴェンの2番や大地の歌、これまたシューマンの2番他、コンツェントゥスはシューベルトの1番他だ。

5.21 19日、急に思い立ってEnsemble Kontrapunkteの演奏会に行ってみた。当日券を買いに窓口に行ったら、ちょうど前の女性が来年のプログラムを片手に長々と何やら相談を続けてい て、そうこうしているうちに開演時刻になってしまった。後ろにも同様に当日券を買う人達が並んでいる。こっちの人達は交渉事も納得するまでトコトン話し合 うので、一度並んだ列はなかなか進まなくなる。(以前空港でも同じように列が出来てしまい、計ってみたらチェックインするだけで一人5分ほどかかってい た。)さすがにだんだんイライラしてきたところで、順番がまわってきて急いでチケットを買ってホールに滑り込んだ。間一髪セーフ、座ったと同時に開演。1 曲目はマルティヌーの「Wchec au Roi」、オーストリア初演だそうだ。語り手が何やらしゃべっていたが訳がわからず、それでも軽快な音楽が30分ちょっと続く楽しいものだった。そして次 が、ミヨー:「屋根の上の牛」、これが目当てで来た演奏会。たった今譜読みをしている曲だし、生じゃなかなか聴く機会が無い。独奏はウィーン・フィル・メ ンバーのJosef Hellでこのアンサンブルのコンマスでもある。かなりの難曲だし、バックの室内オケとのバランスも難しい。オケに消されるところもいくつかあったが、 ウィーン風の柔らかな演奏で新たな発見が沢山あった。客席からも盛んにブラボーと歓声がとんでいた。それと、やっぱり音が違うんだよねえ。ただ「きれい、 美しい音」と一言でいうが、それ以上に潤いのある、なんとも表現の仕様のない響き。日本できれいな音というとガラスの様な濁りのないピュアなイメージを持 つけど、それに何か特別な響きが加わっている。こんな音でオケを弾いてるんじゃ、ウィーン・フィルが独特のサウンドだというのもうなづける。なんなんだろ う、あの音は・・・・と、ずーと考えてしまう程惹きつけられる音色だった。 後半は再びマルティヌーに戻って左手ピアノのためのConcertinoNonettだった。

5.18 5月に入ってしばらくは30℃を超える日もあったが、このところはさほど気温も上がらず気持ちの良い天気が続いている。今日は昨日に引き続きドレスデン・ シュターツカペレに行った。曲はメインは同じく幻想、前プロがウェーバーの序曲とシュトラウスの「死と変容」で、昨日の前プロは「ローエングリン」前奏曲 とリスト:前奏曲だった。印象は同じ、というかますます魅力感じるオケである。メンバーの年齢層もバランスよく、世代交代がうまくいっているようだ。どの パートをとっても穴が無いし、技術もさることながら世代差の演奏意欲が同じなので纏まったときのパワーは凄い。2日ともホントに楽しい演奏会を聴くことが 出来て幸せだ。そうそう、今日は「世界の小澤」がVIP席で演奏を覗いていた。 終演後は3月に入ったばかりのメンバー、島原さんと友人達数人で飲みに行った。彼女は以前N響のトラに何度か来てくれたあとドイツに留学していたとか。ド レスデンでヨーロッパ人以外が入団するのは初めてだそうで、当然日本人初の快挙である。短い間だったけど、いろいろ聴くことが出来て興味深かった。

5.17 17日は演奏会ダブル・ヘッダー!1530からウィーン・フィル定期で「タンホイザー」序曲、ベルリオーズ:幻想交響曲他をゲルギエフ指揮でまず聴く。 相変わらずテンション高いねえ!ゲルギエフ。彼の指揮にウィーン・フィルも食らいついていくのが伝わってくる。あと幻想の2楽章がなにげにヴィーナリッ シュになってたのは、いかにも「らしい」演奏。これだけでも十分満足なのだが、その後同じムジークフェラインでドレスデン・シュターツカペレでメインは同 じく幻想。こちらはケント・ナガノ指揮。ウィーン・フィルも上手いと思ったけど、ドレスデンのほうがもっとテンションが高い。音圧も強いし、音も重い。ど ちらもオケの個性がでてて面白かったが、好みはドレスデンかな。表現がクリアというか、エッジが利いているというか。たまたまデジカメを持ってたので写真 を撮ってみたが、昼と夜の違いはあるとはいえ、とても同じホールでの写真には見えないほど、雰囲気が違う。
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こちらはゲルギエフとウィーン・フィル。終演後。 wie-15.JPG
ドレスデンの終演後、なんか雰囲気違う。 ウィーン・フィルの方が音が明るくて響きが沢山あるような感じ。それに比べてドレスデンはもっと実が詰ってる感じというのか。ま、こういう比較は所詮その 時の気分や体調、周りの雰囲気、見た目などなど当てになるものではないので、いちいち書いてもしょうがないのだが。ドレスデン、恐るべし!素晴らしいオケ であるのは確かだ。

5.16 これから3日間は演奏会漬け。まず16日、午前中にRSO-WienのGPを聴いて、夜はクリスティアン先生のハウス・コンツェルトがあった。プローベな しのぶっつけ本番で、モーツァルト:ピアノ四重奏曲第1番とドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲が演奏された。普段レッスンを受けている部屋がコンサートホー ルになり、15人程の知人、友人を招いてのコンサートは、暖かみに満ちて心が和むものだった。演奏が終わってから、しばらくの間ワインを飲みながらの立食 パーティになり気持ち良く飲んでいたら、「次はシューマン!」と僕が演奏に借りだされることに。実は当日朝に電話がかかってきて「何か弾いてもらうので楽 器を持ってくるように」とのお達しが先生からあり、何を弾かされるかも解らず、緊張して向ったのだった。酒が入っていたけど、案の定緊張して1/2楽章を 演奏。その後、モーツァルトのアリアやベートーヴェンのピアノ・トリオも弾き、夜も深まった1時過ぎ、クリスティアン先生が「一度音を出してみたい」とい Kienzl:ピアノ・トリオを初演。誰も知らず、その場で初めて渡された楽譜をピアニストのリチャードとチェリストのナオキ君、クリスティアン先生3 人が、ホントに素晴らしく曲にしてゆく。止まらないだけでも凄いことなのに、初めてとは思えないその演奏からは、彼らの音楽性が溢れでるようだった。(家 でやるのは難しいけど)身近な人達との交流をしながらの演奏会、こういうコンサートを日本でもやりたいと強く思った。
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5.13 11日はモザイクQの演奏会。ここのカルテットを最初聴いたときは今一ぱっとしなかったのだが、前回のといい今回と、とても素晴らしい演奏だった。コン ツェルトハウス・シューベルトザールでのツィクルスは、全てハイドンとベートーヴェンのプログラムで、この日はベートーヴェンの2番と15番の間にハイド ンの83番がきた。モザイクは古楽器ではないが、全員ガット弦を使いモダンとバロックの中間をいくカルテットのようだ。ガット弦特有の細かいニュアンスが いたるところにちりばめられた演奏で、「こういう表現もあるのか!」と目から鱗が落ちる思いだった。また、その響きの溶け具合がなんとも言えないんだな。 じんわり身体の中から暖まってくるような演奏。今年最後のツィクルスを締めくくるにふさわしい曲と演奏でとっても満足して帰ってきた。 生ガットを鳴らしきるってのは、そうとうテクニックが必要だ。現代の弦はガットでもスティールが巻いてあったり、ナイロン弦やスティールそのものの弦もあ る。それらの弦の方が音量もでるし簡単に鳴るので、今では主流となっている。でもつい60年程前までは、まだまだ生ガットの時代だったのだ。クライスラー やハイフェッツ、エルマンなどなど、生ガットで弾いていた時代もあったはずだ。それでいてあれほどの音色、鳴らし方が出来るというのは、今から考えると相 当凄いことなんじゃないかと思う。楽できる部分は楽していいとは思うけど、難しさを知ったうえで楽するのか、知らずに楽してしまうのかは大きな違いなん じゃないか。と思うと、急に生ガットを張って弾きたくなってきた。

5.10 今日はSymphonikerの演奏会。M. Viotti指揮でウェーバー:「オイリアンテ」序曲、シベリウス:ヴァイオリン協奏曲、ブルックナー:1番だった。始まる前に事務所の人だろうか、舞台 に登場して「マエストロ・ヴィオッティは」と何やら説明をしていたがサッパリ解らず。病気か?とも思ったが、その後何事もなく指揮者が登場して演奏が始 まった。初っぱなからオケは全開、快調に飛ばしてゆく。やっぱりこういった雰囲気でないと楽しめない。シベリウスはN.ズナイダーがソリスト。彼は去年の 3月にN響とツァグロツェク指揮でブラームスの協奏曲を一緒に演奏している。ステージに出てきただけで貫録充分、やはりソリストになった人は只者ではな い。難曲のシベリウスを彼の語り口で鮮やかに表現していた。鳴り止まない拍手に答えてアンコールを演奏。曲はクライスラーの、名前忘れました。去年の3月 も同じ曲・・・。 で、後半のブルックナーは、病人が振っている(と勝手に想像している)指揮者がやってるとは思えない、集中力の高さ。ブルックナーの気持ちは伝わるけどまだまだ無駄の多い曲なのに、ブルックナーの気持ち以上の演奏をしていたように感じた。ああいった演奏をして貰えれば、さぞかしブルックナーもあの世で喜んでいることだろう。シンフォニカー、恐るべし。 ところで、今日もStehplatzで聴いていたのだが、こっちの客はなんで演奏中に話すのかなあ。ソリストの知りあいなのかも知れないけど、ズナイダー が彼らしい歌い回しをするたんびに鼻で笑ったりそれについて小声で話してたり。気になる人は当然振り向いたり、覗き込んだりするのに、本人達はあまり気に しないらしい。こっちに来て少々のことではあまり気にしなくなったけど、真横で演奏中に話されるとさすがに気になる。 かといって先日、全く逆の事もあった。それはカメラータ・ザルツブルクがメンデルスゾーンの「エリア」を演奏したときのこと。大枚43オイロをはたいて3 階席2列目ど真ん中を手に入れ、さあ楽しもうと演奏が始まったら、目の前に座っていたオバサンが異常なくらいに神経質。誰かがちょっとしゃべったら後ろを 振り向くし、イスの軋む音でそっちを睨む、隣にいたおじさんがパンフレットを読もうとめくっただけで睨み、眼鏡をたたむ音でシー!っていう。僕の隣に座っ ていた御婦人は風邪気味らしく、演奏中鼻水を押さえるのに必死。それなのに、ティッシュ・ペーパーが擦れる音がしただけで後ろを振り向かれちゃ、もうどう しようもない。その辺一帯は身じろぎ一つ出来ないまま1時間ちょっとを過ごす羽目に。そのくせ、自分は咳をしたり、足を組み替えたりであまり気にしない。 咳込んだ際、先ほど睨まれた隣の男性が眼鏡の上からジッと覗いていたのが印象的だった。(僕は休憩後、いたたまれなくなって移動しました。)どちらにし ろ、ほどほどにしてもらいたいもんだ。

5.9 ここんところ更新が滞ってた。話題がないわけじゃないんだが 昨日は久しぶりにレッスン。現在ベートーヴェンの10番を復習ってる。レッスンも終わりホッとしたので、同門の生徒と久しぶりに外に呑みに行った。そこは アメリカン・パブとでもいうのかな、英語のメニューと多数のビールやウィスキーがあり、モニターにはアメリカ大リーグを放送している。お勧めはとりあえず ビールということで、大ジョッキを注文。フィッシュ&チップスをつまみながらお替わりのビールを追加。その後白ワインに乗り換えてからも最近の日本はどう だとか、音楽談義に花が咲き、なんやかんや6時間も居座って呑んでしまった。さすがに今日は二日酔いで休肝日です。 夜はウィーン弦楽四重奏団の演奏会に行く。ウィーン・フィル・コンマスのヒンク氏率いるQuartettだ。曲はモーツァルトのd-moll、ボロディン 2番、そして「アメリカ」の名曲プログラム。どれもいかにもウィーン風といった演奏で、お客さんの雰囲気もユッタリしている。古のウィーンはこんなんだっ たのだろうか。特にヴィオラの音が素晴らしくて聞きほれてしまった。

5.6 久しぶりのOper,出し物はドニゼッティの「ファヴォリーテ」・ルイージ指揮である。今年の2月にプレミエで今回が今シーズン最後の公演。ルイージもし ばらく見納めだと思い、出掛けていった。この演目はソリスト陣が豪華でウルマナやサバティーニが出演するはずだったのだが、そのサバティーニが病気で若い テノールが代役として出てきた。急な代役だったにも関わらずステージに上がりオペラを一曲歌いきる、これだけでも凄いことだ。聴いているこっちがついつい 応援したくなる。それなのにStehからはちょっと音を外しただけで笑うってのはどういうこと?確かにサバティーニ目当てで来た人にとっては残念だろう。 でもそこまであからさまに意思表示をする必要があるのだろうか。「引き受けた以上はプロなんだから、ミス無しは当然」という考えもあるが、一生懸命やって いる人の行為に対して笑うってのはちょっと残念な反応だと思った。

5.3 昨日は急遽、ウチでアスパラガス・パーティになった。メンバーはいつものCIAさん他友人2人(すべて女性)。こちらではシュパーゲルと呼ばれるアスパラ ガス、春の訪れとともに市場に並びだし、人々は旬のそれを楽しみにしているらしい。日本ではタケノコ、初鰹と似たような儀式だろうか。こちらのアスパラガ スは日本のスーパーで見るのと違ってとっても立派。特に白アスパラは直径3センチくらいは優にある。ナッシュマルクトで5Euro/1kg.の白と 7.5Euro/kgの緑を買い、塩茹でにしたた上にゆで卵のみじん切りをのせ、溶かしバターをかけて食べた。 sparg.JPG この写真はその完成図。横にあるワインはCIZさん差し入れの「シュパーゲル・ワイン」という名のワインで、アスパラガス料理とピッタリ!どれもあっとい う間に平らげてしまい、先日のN響ウィーン公演の際に、ヴァイオリンの横山さんからいただいた日本酒に移行。「やっぱ日本酒だよね~、となるとつまみはウ ニ?」と冷凍保存してあったウニの瓶詰めを空け、日本酒も空になった。でさらに夜は深まり、恒例の怖い話で盛り上りながら、今回も明け方4時までのんでし まった。ちょっと反省。 今日はORF響の中島さん宅でハウス・コンサート。旦那さんがお父様のハープシコードで伴奏のもと、オリジナル楽器によるベートーヴェンのホルン・ソナタ や2つのホルンのためのDuo、またORFメンバーによる弦楽四重奏でシューマンの3番などが演奏された。終演後はみんなでワインを飲みながら歓談タイ ム。今回は自慢の豆腐ステーキを作って持っていったら、あっという間になくなってしまいとても嬉しい。「何故ヴァイオリン弾いてるの?コックになればよ かったのに」と現地の人に言われて、喜んでいいのやら・・・。たしかにウィーンの生活で料理の腕は格段に進歩している。帰国した際は宴会?

4.27 26日はコンツェルトハウスにてN響ウィーン公演。25日にメンバーはウィーン入り。数ヶ月ぶりの面々に会うまでは何となく緊張してたが、覚えていただい ててホッとする。その日はたまたまウィーン響の演奏会があり、メンバー10数人も聴きに来ていた。そして翌日の演奏会は、GPから聴いた。アルゲリッチの キャンセルで、急遽代役のL.フォークト。リハーサルも当然当日のみのため、時間が延長になってこっちとしてはありがたい。彼はまだ今年33歳になる若手 だが、Heimbachというところで毎年行われる室内楽フェスティバルの音楽監督でもあり、アルゲリッチの存在など関係なしに彼の世界をしっかり主張し てゆく(その室内楽フェスティバルのライヴCDがEMIから発売されている)。
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GP後のフォークトと堀さん、カデンツァの打ちあわせ?)
で、本番。ベートーヴェンの1楽章途中にあるカデンツァで、おもむろに堀さんがピアノに近づき、Gの音を一発!その後何事もなくオケの間奏が続く・・・、
会場は一瞬何が起こったのか解らない空気が漂う。これは聞いた話によると、フォークト氏が「ベートーヴェンの書いた通りにどうしても再現したい、でも演奏 不可能な箇所なので手伝って欲しい」とのことだそうだ。客席では首をすくめる人もいたが、こっちはGPでも観ているので思わずニヤニヤしてしまう。 さて肝心のN響だが、「自分が所属しているオケを(しかもウィーンで)聴く」というのは どうも冷静に聴けない。なんか聞き手がおめでたい気分になってしまうのだ。最初の「ローマの謝肉祭」では、自分も弾きたい気持ちを抑えるのに大変だし、メ インの「展覧会」でもかつてデュトワとやった演奏を思い出したりしてどうもイカん。難しい箇所が解っているので、それを次から次へと見事にクリアしていく 様を見守るだけしか出来ない自分、なんとも落ち着かない演奏会であった。
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(終演後のカーテンコール。)

4.24 ルクセンブルク・フィルの演奏会に突然思い立って行った。ムジークフェラインのStehplatzは、開場時はそれほどの人ではなかったので、「今日は楽 に聴けるな」と思っていたのだが、今日の立ち見連中はとにかくうるさいというか、演奏中にもかかわらず出入りするし、メモをとるためのボールペンを友人か ら借りる奴、静かなところでも平気で喋るなどマナーがなってない。俺の後ろも横も、演奏中話しだすので全く音楽に集中できなかった。おまけに客席でも ベートーヴェンの協奏曲を演奏中、具合の悪くなった人を運び出すという一幕もあった。悪いときは重なるものである。というわけで、良く解らないままホール を後にした。

4.23 今日はウィーンに来て初めて中央墓地に行った。ウィーンゆかりの音楽家達が眠っているそこに、一度くらい行ってもバチはあたるまいと、32a(墓地の番 地)へ向う。モーツァルトの記念碑を囲むようにして、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、ヨハン・シュトラウスのお墓がきれいな花で飾られてい た。昨日ハイリゲンシュタットに行ったばかりだし、日本で室内楽作品の全曲演奏を目指している我々にとって、ベートーヴェンは特別な思いがある。彼のお墓 の前で写真を撮っていたらポツポツと雨が降りだし、雷も鳴ってきた(ウィーンに来て初めての雷だ)。ひとまず雨宿りをしにその場を離れ、雨が小降りになっ てから再びお墓に参拝。今度はちゃんと手も合わせることが出来てホッとし、帰ることにした。お墓の出口に差しかかったころ、今まで曇っていた空が急に晴れ 渡ってきた。これって、ベートーヴェンからあまり歓迎されていないことなのかも・・・とちょっと不安になったが、あまり深く考えないことにしよう。
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帰り道、今度はシューベルトが死んだ家を訪ねる。ナッシュマルクトから歩いて5分ほどのとあるアパートの1室がシューベルト記念館になっている。昨日の ベートーヴェンの部屋もそうだったが大作曲家とはかけ離れた質素な部屋で、小さい部屋が3つと入り口のスペースのみ。彼の使っていたピアノの他に当時の絵 や、死亡診断書、彼が最後に書いた手紙などが展示されている。とっても整っていて丁寧に、きれいに書かれている筆跡からは、彼の几帳面な性格や繊細さが感 じられた。彼が亡くなったのはこちらも32歳。死期が迫っている中、どんな気持ちで最後の手紙を書いたのかと思うと、なんとも言えない気持ちになった。

4.22 今月2日にも行ってたハイリゲンシュタット。あまりにのどかな雰囲気が気に入り、もう一度行くことにした。今日はオーストリア放送響のリリコちゃんと飲み 仲間の千晶ちゃんも一緒。まず前回行ったにもかかわらず入れなかった「ベートーヴェンがハイリゲンシュタットの遺書を書いた家」を訪ねた。ベートーヴェン がこの有名な遺書を書いたのは32歳。ちょうど今の僕と同い年で、すでに音楽家として致命的な難聴を自覚しているのだ。でもそんな中、彼を支えたのはハイ リゲンシュタットの自然だった。ベートーヴェン・ガングと呼ばれる小川の辺の散歩コースを歩いてみると、まさしく田園交響曲そのものであることが実感でき る。また7番や第9などに出てくる有名な付点のリズムも、同じ様に鳴く鳥がいて、「彼はきっとあの鳥の鳴き声を覚えていたに違いない」と確信する。 wie-12.JPG
ベートーヴェン愛用のピアノ
それからカーレンベルクの丘に登り、ブドウ畑を通り抜けてグリンツィングまで歩いて降りてきた。普通ならそのままホイリゲへ!となるのだが、今日はそこを グッと我慢して町中に戻る。シュヴェーデン・プラッツからシュテファンスを目指そうとした時、たまたま通りがかったスペイン料理屋さんが気になり入ったら 大当たり!ワインもつまみの美味しかった。

4.20 只今世の中はイースター休み中。しかも日曜日なので街を出歩いても人通りが少なく、気持ちがよい。今日は歩いてブルクリングまで出て、自然史博物館を見 学。1階に展示してある爬虫類や昆虫、動物の剥製をみた。顕微鏡で小さな生物を覗くコーナーがあって、ボウフラとか訳の解らない毛虫、うジャウジャかた まったまま動き回る幼虫などはさすがに気持ち悪い。その後の寄生虫のコーナーも、「こんなのが身体の中にいるの?」と思うと、ゾッとするものばかりだ。そ れからも、貝類、ヘビ、蝶、鳥類、クジラや象の標本・・・・よくもここまで展示してあると感心し、ざっとみるだけども相当疲れた。パルテレには他の化石や 人類の進化などのコーナーがあるらしいが、疲れたのでカフェでお茶をして休憩することに・・・。 珈琲とホット・チョコを頼んで、いざお会計する時にレシートを見たら「ホット・チョコが2つ」になっていたので当然訂正してもらい(珈琲のほうが40セン ト安い)、10オイロ札を出したら15.5オイロのお釣りがきた!5オイロ札だけ貰ってお店を出たのだが、後になって「もしかしたら20オイロ札を出した のかも・・・」と心配になったけどもう後の祭り。それからしばらく、「いや、10オイロ札しか持ってなかったはず・・・・。1枚だけ20オイロ札あったっ け?・・・・」などと、気になって仕方ない。ウチに帰って出納帳を調べてみたら、計算は合っていたので向こうの勘違いだったのだが、40セントが原因でそ うとう悩む羽目になってしまった。まあ、えてしてこういうもんである。

4.19 今日はOperで「パルシファル」を聴く。ワーグナーを聴くのはこれで6作目。今回はGalerie Halbmitteを通り掛かりのチケット屋で買っておいたもの。元値25オイロのチケットに手数料が1枚につき10オイロと、かなりボロい商売である。 どうりですぐ売り切れるわけで、きっと買い占めしているに違いない。それでも舞台が良く見えて満足。ワーグナーを聴いて毎回思うのだが、あれだけの音楽、 歌、歌詞をずーと歌い続ける体力に脱帽する。相変わらずオケは良く鳴ってたし(指揮はP.シュナイダー)、舞台もシンプルながら心理描写を照明で上手く表 していたりで感動して帰ってきた。21日は再びワルキューレを聴きに行く。

4.14 9日、ヤンソンス指揮ピッツバーグ響を聴いた。今日もStehplatzだが、早めに行って並んだので運良く1列目を陣取った。曲はバルトーク:弦・チェ レとブルックナー:7番の2曲。アメリカのオケを聴くのは久しぶり。バルトークはちゃんと聴くのは初めてだったが、アンサンブルの素晴らしいこと。一糸乱 れぬってこういうことか。それとティンパニを叩いていた黒人のお兄ちゃんがノリノリで見てて気持ち良い。身体に染みついたリズム感で叩いているんだろう な。なんか羨ましい(彼は出番になるまでティンパニ横に置いてあるイスに座ってて、出番直前におもむろに楽器前のイスに移っていた)。後半のブルックナー ではやっと金管陣も参加。その金管は明るくて強力な音色、それをヤンソンスが上手くコントロールしてたように見えた。「アメリカのオケでブルック ナー?」って最初は思ってたけど、お見事、ちゃんとブルックナーしてました。個人的には2楽章の中盤から後半にかけてのジワジワ感がたまらなかった。「ほ んとにブルックナーが好きで弾いている」、そんなみんなの気持ちが伝わってきた気がする。アメリカのオケだろうと日本のオケだろうと、気持ちを込めて演奏 すれば伝わるはずだ。そうでなきゃ、一生懸命続けている我々は報われない。 10日はOperで「魔笛」。なんかとっても斬新な舞台で、白と黒の2色で表と裏の世界を表していた。また途中、ワニ親子や河馬、うし、カンガルー、ヒョ ウなどが登場、2幕のフィナーレではそれら動物が踊りだすという、なんとも愉快なエンディングだった。どんな斬新な演出でも、モーツァルトは違うね。チェ レスタでパパゲーノの持っている魔法のランプ?(名前忘れました)が光りだすところの音楽なんぞ、あれほどチャーミングで高貴な響きは誰にも真似できない だろう。

4.8 今日でアテネをあとにする。午前中、市場を眺めてからもう一度アクロポリスの麓を散歩し、空港に向った。4日間アテネの街を歩いてみて解ったことは、今は どこもかしこも来年のオリンピックのために工事だらけ。地面を掘り起こしてあったり、ビルを建てていたりでかなり埃っぽい。そして車・バイクが多くていた るところで渋滞している。人々は5秒として待ってられないらしく、すぐクラクションを鳴らすし、二重駐車も当たりまで、三重駐車すらあるくらいだ。街の中 心部の地下鉄駅構内はとてもきれいに整備されているが、人の流れを考えて出口を作ってないのでホームには人が溢れているし、午後12時頃で満員電車になる んだから地下鉄の本数が少なすぎる。来年までにはある程度整備されるんだろうけど、間に合うのかな?古代遺跡と近代化、共存するには問題が山積みだと思っ た。 街はうるさいし、人が多くて歩きにくいが、食べ物に関しては最高だ。サラダはただオリーブオイルと塩コショウだけで充分。タコ、エビ、イカ、貝類がふんだんに食べられるし、肉類も豊富で物価が安い。4日間、食事は最高の思い出となった。

4.7 アテネ3日目の今日は、アテネ博物館を見学。オットー一世が7年間宮殿として使ったお屋敷を改造して18世紀前後のアテネの風景画を沢山飾っている。当然 アクロポリスの絵もあり、円柱がすべて揃っているものや現在より少ないものなど、時代とともに壊されては修復し、また壊される・・・を繰り返しているのが わかった。なんとも悲しい運命の持ち主。それともこの古代神殿がすべて完成されたら巨大な力を持ってしまうのであろうか。良く解らない。 その後コロナキ広場を通ってリカヴィドスの丘を歩いて登る。かなり急斜面だったが、気持ち良い風に吹かれて一気に登った。頂上からはアテネ市内から対面にあるアクロポリス、ピレウス港まで見渡せる絶景。これは是非お奨めする。 夜は久しぶりに寿司を食べた。ウィーンよりネタの種類が豊富で新鮮。生のイカを食べたのは何ヶ月ぶりだろう。また酢飯の加減が丁度よかった。まだ飲み足り なかったので、幻想的な夜のアクロポリスを眺めながらギリシャレストランにハシゴする。ここでは鳥肉のスロバキ(ギリシャ風焼き鳥)とサラダ、ワインを飲 み、仕上げにウゾーを飲んで心地よく帰った。

4.6 宿泊先のホテルは修学旅行生の集団が泊まっていたらしく、賑やかを通り越してホントにうるさい。生徒達が近隣階の友人を訪ねるにもエレベーターを呼ぶので いつまでたっても来ないし、廊下でラジカセを鳴らすわ、朝の朝食会場も大変な騒ぎ。朝の一時をゆったりと過ごそうと思っていたのに、出鼻をくじかれてし まった。そして午前中、「無名戦士の墓」を訪れ衛兵の交代式を見る。要人が多数参列し一人ひとり献花をした。ここでもいろんなところから観光バスで乗りつ けた学生達がやたらとうるさい。人が並んでいる前に平気で割り込んでくるし、厳かな儀式のはずなのに彼らにとってはどうでもいいようだ。ま、その後ろでは 鳩にやるえエサを売っている大人もいるくらいだから、ギリシャとはこういうのが当たり前の国なんだろう。ロンドンの騎兵隊の交代式ではこんなことはなかっ たことだ。とにかくうるさくて気分が悪くなったので、すぐそばの国立庭園を散歩して大統領官邸の前に抜ける。ここでもたまたま衛兵交代をやっていたが、人 が少なく間近で見られてラッキー。その後美術館に行くつもりだったが、なんかゴミゴミしたところから抜け出したくなったので、ピレウス港に向かい船でエギ ラ島に向うことに予定を変更。港でジェットフォイルを待つ間、近くのカフェで遅めの昼食をとることにする。まるっきり英語は通じないが、かわいいお姉ちゃ んに「パスタが欲しい」と言ったら、解ったらしくしばらくして運ばれてきたのはやたら甘いチョコレートケーキだった。 エギナ島はジェットフォイルで約40分。船着き場のすぐそばにある食堂からは、タコやいか、エビを焼くいい匂いがしてくる。意識をしっかり持ってないと吸 い込まれてしまいそうな香りだが、夕飯を思いっきり食べるためにグッと我慢。アテネと違い、ここはこじんまりとして比較的静かな場所だ。あいにくの空模様 で途中から雨が降りだしたが、約2時間ほどブラブラと散歩して再びピレウスに戻る。
今宵の夕飯は昨日と同じレストランに二日続けて通う。2日でギリシャ風サラダ、トマトと弾力ブリブ リ・モッツァレラ(素晴らしかった)のバジル・ソース、タコのオリーブ漬け、エビ団子揚げ、ギリシャ版イカ飯(チーズ入りのリゾットがイカに詰められてい る)、えびのリゾット、エビや貝類がたっぷり入ったパスタ、サーモン・フィレのグリル等、ウィーンでは食べられない海鮮料理をたっぷりと食べた。しばらく 食べなくても、あと5ヶ月は持ちそうだ。

4.5 5日からアテネに来ている。たまたまレッスンも春休みになり、心置きなく休暇を楽しんでいる。ギリシャに来るのはもちろん初めて。来るまでギリシャがどこ にあるかも知らなかったほどだ。アテネは来年オリンピックが開催予定で、街中その準備であちらこちらが工事だらけ。空港から市内に入る幹線道路も突然3車 線になったり、1車線に減ったりと、急ピッチで工事を進めているのが良く分かる。昨日は午後3時頃ホテルにチェック・インして早速アクロポリスを目指す。 ゴミゴミした街をダラダラ歩いていると突然目の前に古代遺跡が現れ、その横では車やバイクがクラクションを鳴らしまくって通りすぎていくという、なんとも 不思議な街だ。
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日本だったら、歴史的遺産のある街をあげて景観保護や街づくりをしていくだろうに・・・と思いながら 急な坂道や階段を登って辿りついたそこは、この世のものとは思えない独特の雰囲気を醸し出していた。こんな山の上に紀元前の人々は、何のためにこれほど巨 大な石の神殿を造ったのだろう。またどうやって運んだ、削ったのだろうか。ただ残念なのは、オリンピックに合わせてか、地震で壊れたのか、ほとんどの神殿 が修復中だったこと。それまで写真などで見てきたものと違い、イントレが組まれ、クリスティアン先生が「是非見てこい」といったニケの神殿も工事中で見ら れなかった。 ath-02.JPG それでも今まで全く関心の無かった古代ギリシャやギリシャ正教など、ちょっと興味が湧いた。
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(アクロポリスから覗いた古代のコンサートホール)

夜は当然ギリシャ料理。地下鉄でアテネ近郊の港町ピレウスに向かいT君ご推薦のギリシャ料理レストラ ンに行く。ここは海が近いので新鮮な魚介類がたっぷりとある。ヨーロッパではあまり食べないタコもここでは死ぬほど食べられる。どの料理も素晴らしく、た らふく食べて飲んで一人30オイロもしなかった。

4.4 今日は3つの演奏会から。 まず、2日はコンツェルトハウスでフランス放送響(チョン・ミュンフム指揮)を聴きに行った。メシアン(題名が分かりません)とサン=サーンス「オルガン 付き」の2曲構成のプログラム。ガラガラの客入りなので始まる直前に座席を移動しようとしたら、係のおばちゃんにチケットの提示を求められあえなく失敗。 こんなにガラガラなんだから良いじゃないかとぶつぶつ言いながら元の席に戻る。前半のメシアンが始まってすぐ、普段聞き慣れているのと違う明るい響きに驚 いた。ゆったりしたテンポの1曲目は、終始トランペットが主役。その音色は、ただ明るいだけではなく軽さと豪華さを伴っている。2曲目から他の楽器が加 わってきて、3曲目は大編成のオケの魅力が発揮された大音響だった。が一転して終曲はメシアンお得意の弦のみの静かなゆったりした曲。ファースト・ヴァイ オリン全員とセカンド5人、ヴィオラ4人?とチェロ2人は「キリストの昇天」を思い出した。あれも同じチョン指揮で、定期で演奏した曲。僕はその時セカン ドの6プルトだったので、ただ息を殺してゆったりと流れる(しかし恐ろしく緊張感溢れる)演奏を固まって聴いていたのだった。この日の演奏は確かに緊張感 はあったけど、ステージから遠く離れるとそれほどには感じられない。柔らかくて響き豊かな弦楽器の音色も素晴らしいものだった。 休憩中、先程のおばちゃんが再び現れる。注意されるのかと思いきや、「前半は駄目だけど、後半なら席を移っていいわよ。」その後もプログラムを売りさばく 傍ら、「ほらっ、空いてる席に移りなさい!」とばかりに目で合図をしてくるので前に移る。そして後半のサン=サーンス。全体的に速めのテンポで一楽章の前 半(例の16分音符が微妙な絡み具合をする箇所)も、鮮やかに決まっていた。あそこはサラッと流して合わせたほうが上手くいくと思う。(中にはきっちり合 わせたがる指揮者もいるが、合ったところで音楽の流れは停まるし、聴いていて楽しくない。)フランスのオケにチョン指揮って、なんか合わない気がしてたが まるでそんな事無く、オケは気合入っているし、そこに一音足りともきを抜かない彼の指揮ぶりでかなり濃い演奏になっていた。それと、前半でも気になった弦 楽器の人数(15-15-11-11-9)が後半でもそのままだったので、このオケは普段からこの配置で並んでいるのだろう。個人的に嬉しかったのはセカ ンド・ヴァイオリンの主張が強かったこと。ファーストと同じ人数になってるからとはいえ、気合が入って無いとああいった音色で客席には届かないと思う。ア ンコールは、これまた充実度満点のフォーレ:「ペレアスとメリザンド」から1曲目とカルメン前奏曲で大盛り上りだった。帰り際におばちゃんに挨拶をして 帰った。
3日はムジークフェラインでサラステ指揮ウィーン響の演奏会。この目玉はなんといってもテツラフ独 奏のベートーヴェン!!いつもの席ポディウムrechtsでテツラフを観察。コンバスのおじさんが邪魔な譜面台をどかしてくれて、最高の場所となった。 10年前にクフモでテツラフの演奏を聴いて以来熱狂的なファンとなった僕は、機会があれば録音、放送、演奏会といくつも演奏を聴いてきたが、どれをとって も裏切られたことはない。彼の凄いところは、音楽に真面目に向きあいながら楽しんでいるところ。今回も難曲ベートーヴェンを鮮やかに弾ききっていた。ベー トーヴェンがとっても身近にに感じられた演奏だった。カデンツァはベートーヴェン自らピアノ協奏曲に編曲したオリジナル・カデンツァをテツラフがヴァイオ リン用に編曲し直したもので、ティンパニのオブリガートつき。またホルンはこの曲だけナチュラル・ホルンで吹いていた。後半はバルトークの「オケ・コ ン」。これはStehplatzに移動して聴く。全体的には良かったんだけど、いまいち盛り上がらなかったな。
4日はコンツェルトハウス・モーツァルトザールでツェートマイヤーQの演奏会。ホール前で余ったチ ケットを買い、前から3列目で聴く。ステージ上にはイスが1個しか置いてなくどうするのかと思っていたら、果たしてチェロ以外は立って、しかも全曲暗譜で の演奏だった。1曲目のシューベルト:序曲からツェートマイヤー節全開のppのオンパレード。「何もそこまで」と思うくらい、限界を超えた世界が展開され ていく。2曲目がJ.CageQuartett。これも単調な曲に幅の広い強弱やエッジの利いたアクセントが効果的。3曲目のグリー ク:Quratett(遺作)で、聞き慣れた響きにやっとホッとする。この曲はもちろん初めて聴くが、2楽章構成の民族色が強い曲だった。ここで休憩を挟 み、最後はバルトーク:5番。これまで暗譜で弾くなんて、まともな人がすることではない。演奏もある意味「いっちゃってる」演奏で、完ぺきな演奏だったと 思う。ツェートマイヤーは前回のホリガー(11月12日参照) いい、現代曲も難なく表現できる貴重な演奏家だ。幅広い表現力に完成されたテクニックでそれはとても凄いことなのだか、Quartettになった場合彼自 身があまりにも凄すぎて周りのプレーヤーとの差がありすぎるように感じる。それぞれとても上手いと思うが、ツェートマイヤーに必死について行く様子が ちょっと異様だ。「ツェートマイヤーとその信者達」と言ったら失礼かもしれないが、怪しい宗教団体のように見えてしまった。