過去のBlog 2008年5月

◆5月30日《シンガポール交響楽団》
愛知、福井、金沢での演奏旅行を終え、夜行寝台で帰宅。29日の夕方出る飛行機でシンガポールへ。翌日は夜エスプラネードで行われたシンガポール交響楽団の演奏会を聴きに行った。オール・ベートーヴェン・プロで「プロメテウス」序曲、ヴァイオリン協奏曲、交響曲第7番、指揮はE.Klasというエストニア人のおっさん、ソリストはジョセホヴィッツだった。当日券を買いに行ったら、ほとんどの席が売り切れでステージの後ろの席が取れた。
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初めて聴くオーケストラに期待を膨らませて開演を待っていたら、まずコンマスの登場で驚かされた。
そのコンマス、金髪で中年の外人さん(シンガポール人ではない)は名物コンマスなのか、彼がニコニコしながら登場するや会場のあちこちから口笛や盛大な拍手が沸き起こった。これで会場の空気が一気になごむ。そして指揮者登場。Klasは派手な動きをせず、どちらかというとオーケストラに委ねるような指揮。ある程度流れに乗ってきたら、指揮をやめてフレーズだけを見せて行き、オケは停滞することなくドンドン先へ流れて行く。こういうオケ、好きです。
協奏曲のソリスト、ジョセホヴィッツは日本でも有名な女流ヴァイオリニストで、ベートーヴェンを彼女流の現代的な視点でアプローチしていた。またカデンツァも自作?なのかな、かなり独創的なもの。ティンパニを入れる手法はピアノ協奏曲編曲版のベートーヴェン・オリジナルをヴァイオリン用に再編曲したシュナイダーハン版から、クレーメル、ツェートマイヤー、テツラフなど演奏する人は多いが、今回演奏されたカデンツァはベートーヴェンとは全く別のもの。テンポも自在、調性もどんどん遠くへ離れて行き、いったいどこまで行くのやらと思っていると突然ティンパニが入ってきたりする。指揮者は楽譜にかじりついて必死にティンパニに合図を出していた。それでも第3楽章へのアインガングはソリストのトリッキーなパッセージにだまされ、振り間違い!
でも、オケは誰も出ず!
素晴らしい!
と思ってたら、指揮者はさりげなくオケに敬礼をしてた。お茶目。
後半の交響曲第7番は管楽器のメンバーがフルチェンジ。あとで聞いた話だと、出勤日数の関係でそういうことが起こるのだとか。日本人メンバーのトランペット奏者池辺くんもここで登場。 ホルンの2番にはどこかで見たことのある人が元ベルリン・フィルのザイフェルトだった。 前半ではいまいち鳴りきってなかった感じのする中低音域もだいぶ鳴ってきた。ここでは全4楽章をほぼattaccaでつなぐやり方、最後はしっかり盛り上げてくれた。このオーケストラ、荒いところもあるけど聴いてて楽しい。こうでなくっちゃ。そしてやっぱりベートーヴェンは偉大。日本だろうとシンガポールだろうとその魅力を存分に味わえた。



◆5月22日《彩弦楽四重奏団第4回演奏会》
昨日21日は彩弦楽四重奏団の第4回演奏会、モーツァルトの4番、ベートーヴェン3番、ブラームスの1番を演奏しました。前半のモーツァルト、ベートーヴェンはヴァイオリンを対抗配置で、後半のブラームスは写真のような、普通の並びにしてみました。
演奏していて、やっぱり室内楽は楽しい!と実感。ブラームスは初体験でしたが、新たな発見があって挑戦してみてよかったと思いました。個人的には前半の2曲の方がよかったと思いますが、客席はどうだったのでしょうね。
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また今回、会場を今月オープンしたさいたま市北区役所の新しい施設、「プラザノース」の多目的ルームを使いました。広さは客席数200ちょっとと手頃なんですが、 多目的というだけあって音響はいまいちです。まずステージ脇に緞帳がわりの黒いカーテンがぶら下がっていて吸音材になってしまうこと、天井は照明やスピーカーを吊るための足場が組んであって反響板がないので、音が抜けてしまいます。本番の数日前にリハーサルのために会場で練習をした時は、お互いの音が聞き取れずどうなるかと思いましたが、弾く場所をいろいろ変えて最終的にはステージの前に出て演奏することにしました。この方がステージ上で演奏するより、音が客席に届きます。ただ、後ろの反響板から遠くなるので音がまとまりにくくなります。
次回もここプラザノースを使う予定なので、それまでになにか対策を考えようと思っています。



◆5月17日《ピアノの大家お二人》
先週と今週の定期演奏会には、ピアノの大家がそれぞれベートーヴェンの協奏曲を弾きました。先週はレオン・フライシャーで第5番「皇帝」を、今週はブルーノ・レオナルド・ゲルバーで第3番でした。
フライシャーは、右手の故障でずっと左手のみと指揮での演奏活動でしたが、パンフレットによると2年ほど前から右手が使えるようになり、両手での演奏活動を再開したとか。16歳でデビューし、G.セルら巨匠の絶大なる信頼を得て順風満帆の活動を続けていたことでしょう。それが突然、それこそこれから更に自己の音楽を深めて行こうとした37歳の時、今の僕と同じ年齢です。 ジストニアという病で右手が使えなくなり、それから40年もの間左手のみの活動、それだけでも想像を超えているというか、耐えられない苦痛だったのではないでしょうか。でも、そこで諦めることなく、見事復活しこうして第1級のソリストとして演奏することに彼の強靭な精神力と音楽に対する情熱を感じます。


「40年間で学んだことは両手でピアノを演奏することではなく、情熱を持って演奏すること。」

重みのある言葉です。
彼のベートーヴェンは一音一音に気持ちがこもっていて、緩徐楽章は本当に美しかった。

一方ゲルバーも、巨匠というに相応しいピアニスト。見た目はちょい怪しいですが、演奏は繊細でありかつ豪快。強靭な打鍵でありながらけっして汚くならない音は、いつ聴いてもドキッとさせられます。そしてやはりこちらも、緩徐楽章は至福の一時、ベートーヴェンの魅力をたっぷり味わえた第3番でした。