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2008年11月03日カテゴリ:音楽
◆11月22日《11月の定期はイルジ・コウト》
今月N響定期はイルジ・コウト指揮で3つのプログラムを演奏しました。
そのうち、僕はAプロの「トリスタンとイゾルデ」第2幕と、Cプロのショスタコーヴィチの9番,ドヴォルザークの「真昼の魔女」,ヴァイオリン協奏曲が出番でした。
「トリスタン」はなかなか弾く機会がないので楽しみにしていたプログラムでした。前半に「前奏曲と愛の死」を演奏してから休憩後に第2幕という順番は、回想録のようです。僕としては「愛の死」で終わりたかったですね。繋ぐのはかなり無理がありそうですけど。
それにしても、ワーグナー歌いっていう人々は余裕で長大な物語を歌いきる。「演奏会形式なのでオケはそうとう落とさないといけないかも」と思ったのですが、そんな必要ないくらい声量に圧倒されました。
ドヴォルザークの交響詩「真昼の魔女」は 夏に演奏した「野鳩」同様 後期の作品、情景描写が上手い。日常の家庭の様子、子供がぐずる様子、魔女が出てきて、子供を連れ去り、踊り… さすがドヴォルザーク!
続いてヴァイオリン協奏曲は弱冠19歳のドイツ人エーベルレが独奏、上手いねぇ。落ち着いた音色に確実な技術、この先楽しみな女性奏者でした。
続いてのショスタコーヴィチ、コウトはしっかりとした物語が出来上がっていて、それに向かってひたすら純粋に表現しようとします。それはどの曲にも当てはまります。派手なパフォーマンスもないし、受け狙いでもなく、音楽に向かって一生懸命突き進む姿に毎回感動します。素晴らしい音楽家だと思いました。また来て欲しい指揮者です。
◆11月11日《モーツァルトのG-Durについて》
毎年この時期にN響の練習場の近くにある高輪学園で演奏会をしています。これは亡くなられたN響チェロ奏者、三谷さんから引き継いだものでご父兄の方々が対象でしたが、去年からは在校生も聴くことになり、弦楽四重奏で音楽教室のようなことをやりました。
今年も何をやろうかと頭を悩ませていたら、メンバーのひとりが「弦楽五重奏をやりたい」と言い出したので、難しいかも知れないけどマニアックにモーツァルトのg-mollとメンデルスゾーンの2番を選びました。
メンデルスゾーンは何度か弾いたことがありますが、モーツァルトは初めてです。
K.516ですから後期の作品になりますね、g-mollというと交響曲第40番K.550も同じ調性ですが、第1楽章が交響曲が2/2のMolto allegroという疾走するような感じに対して、弦楽五重奏は4/4のAllegroなのでそこまで速くなく、答えを求めてさまよっているように感じます。しかもヴァイオリン2本とヴィオラ1本の上3声だけで開始されるので、より不安定です。第2楽章も同じくg-moll、苛立った気持ちを表すようなイレギュラーな不協和音と強弱のメヌエットと、静寂で穏やかなG-DurのTrio 。第3楽章は弱音器をつけてのEs-Dur、部屋の中(僕のイメージでは病室)から遠くに見える楽しそうな人達をそっと見つめている、いつかは自分もここを抜け出して外に出たい…そんなイメージが湧いています(今のところは)。で、重苦しいg-mollの序奏の付いた第4楽章は、主部で一転してG-Durに変わり楽しく各楽器が踊り廻っている。ハッピーエンドで良いのですが、どうもこのG-Durが曲者で、すごく寂しく聴こえてしまうんです。特に終わりは、「楽しい一時をありがとう、みなさん、さようなら」と言っているように感じます。
同じ感覚はピアノトリオG-DurのK.564の終楽章で、より濃くなっている。
でもアイネクではそんな感じがしないので、一概にG-Durだからと括ってしまうのはいけませんが、モーツァルトのG-Durってそんな感じ、しませんか?
◆11月8日《古楽の秋》
11月8日、横浜みなとみらいホール(小ホール)で、「古楽の秋」と題する演奏会に参加しました。
1日でバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの3つのプログラムをやってしまうなんとも贅沢な、やる方にとっては過酷な演奏会でした。
午後12時開演 バッハの華と雅
バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV.1068
2つのチェンバロのための協奏曲 ハ長調 BWV.1061(渡邊順生、崎川晶子,Cem.)
カンタータ「私は満ち足りている」BWV.82(小笠原美敬,バリトン)
2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV.1043( 竹嶋優子, 渡邊慶子、Vn)
午後3時開演 モーツァルトの愛!
モーツァルト:フルート四重奏曲 ニ長調 K.285( 朝倉未来良、フラウト・トラベルソ 荒木優子,vn.深沢美奈,va.西沢央子,vc.)
ピアノと弦楽器のための四重奏曲 ト短調 K.478(渡邊順生,Pf. 林智之,Vn. 花崎淳生,Va. 花崎薫,Vc)
ピアノと管楽器のための五重奏曲 変ホ長調 K.452
(渡邊順生,Pf. 本間正史,オーボエ 岡本正之,ファゴット 坂本徹,クラリネット 塚田聡,ホルン)
午後7時開演 ベートーヴェン、崇高なる饗宴
ベートーヴェン:ピアノと弦楽器のための四重奏曲 変ホ長調 op.16(渡邊順生,Pf. 林智之,Vn. 花崎淳生,Va. 花崎薫,Vc)
チェロ・ソナタ 第3番 イ長調 op.69(花崎薫,チェロ)
ピアノ協奏曲第4番 ト長調 op.58
渡邊順生,指揮、チェンバロ、フォルテピアノ 朝岡聡,お話
ザ・バロックバンド
それぞれに朝岡さんの軽妙なおしゃべり(解説)がバロックという難しそうな垣根を取っぱらって、とても親しみやすい構成になっていました。
約1週間、楽器もピッチも古楽仕様に替えて、それこそ朝から晩までのリハーサルは大変でしたが、 渡邊先生の演奏を聴き「こんなアプローチもあるのか」と目からウロコの連続、 また仲間たちのフレキシブルな感性と演奏に普段味わえない喜び、楽しみがあり、僕にとって幸せな時間でした。
夜9時20分ごろに全ての演奏会を終え、横浜から埼玉まで寝て帰ろうと思っていたのにハイテンションで、一睡もできず帰宅。ビールを飲んで早く寝たら、夢でベートーヴェンがずーっと流れてて夜中に何度も起こされ、気がついたら朝を迎えてました。
音楽の力って凄いなと改めて感じました。
◆11月1日《ラ・ラ・ガーデンコンサート2008》
忙しかった10月もどうにか気力で乗り切り、11月1日は恒例の雫石ラ・ラ・ガーデンコンサート。今年は「最後のソナタ」。ピアニストに三宅麻美さんを迎えて、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第10番とショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタに、ミヒャエル・ハイドンのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ第1番というマニアックなプログラムにも関わらず多数のお客さんに来て頂き感謝です。
ミヒャエル・ハイドンの二重奏曲は、モーツァルトの二重奏曲を生み出すきっかけにもなった作品です。本来ザルツブルクの宮廷から6曲の作品を依頼されていながら、ハイドンが4曲まで仕上げたところで病気になってしまい、たまたまウィーンからザルツブルクに来ていたモーツァルトに残りの2曲を替わりに書いてもらって、事無きを得たというエピソードがあります。モーツァルトの二重奏曲は言うまでもなく傑作ですが、ハイドンの方はと言うと、その当時にはピッタリだったんだろうけど、時代が移るにつれて我々の生活がどんどんかけ離れていったために取り残されてしまった感があります。
第2楽章はホントにゆったりとした時間がいつまでも続くような感じだし、両端楽章も劇的な変化には乏しい。その分、リラックス効果は高いとは思いますが、もうちょっと刺激が欲しいです。
ベートーヴェンの10番は最近、特に好きな作品です。9番までとガラッと雰囲気が変わり、大人の余裕、落ち着きのようなものを感じます。そしてそれまでも素晴らしかった緩徐楽章がよりシンプルに、凝縮されています。この曲を選んだきっかけはピアニストの三宅さんがやりたい!の一言で決ったのですが、彼女(実は大学時代の同級生)と一緒に演奏できて、とても楽しかった。是非他の作品もやってみたいです。
ベートーヴェン全部とか、ブラームスとか。
また新しい企画を考えないと…。
写真はラ・ラ・ガーデンから見た岩手山、山頂付近は雪に積もり出しました。
今月N響定期はイルジ・コウト指揮で3つのプログラムを演奏しました。
そのうち、僕はAプロの「トリスタンとイゾルデ」第2幕と、Cプロのショスタコーヴィチの9番,ドヴォルザークの「真昼の魔女」,ヴァイオリン協奏曲が出番でした。
「トリスタン」はなかなか弾く機会がないので楽しみにしていたプログラムでした。前半に「前奏曲と愛の死」を演奏してから休憩後に第2幕という順番は、回想録のようです。僕としては「愛の死」で終わりたかったですね。繋ぐのはかなり無理がありそうですけど。
それにしても、ワーグナー歌いっていう人々は余裕で長大な物語を歌いきる。「演奏会形式なのでオケはそうとう落とさないといけないかも」と思ったのですが、そんな必要ないくらい声量に圧倒されました。
ドヴォルザークの交響詩「真昼の魔女」は 夏に演奏した「野鳩」同様 後期の作品、情景描写が上手い。日常の家庭の様子、子供がぐずる様子、魔女が出てきて、子供を連れ去り、踊り… さすがドヴォルザーク!
続いてヴァイオリン協奏曲は弱冠19歳のドイツ人エーベルレが独奏、上手いねぇ。落ち着いた音色に確実な技術、この先楽しみな女性奏者でした。
続いてのショスタコーヴィチ、コウトはしっかりとした物語が出来上がっていて、それに向かってひたすら純粋に表現しようとします。それはどの曲にも当てはまります。派手なパフォーマンスもないし、受け狙いでもなく、音楽に向かって一生懸命突き進む姿に毎回感動します。素晴らしい音楽家だと思いました。また来て欲しい指揮者です。
◆11月11日《モーツァルトのG-Durについて》
毎年この時期にN響の練習場の近くにある高輪学園で演奏会をしています。これは亡くなられたN響チェロ奏者、三谷さんから引き継いだものでご父兄の方々が対象でしたが、去年からは在校生も聴くことになり、弦楽四重奏で音楽教室のようなことをやりました。
今年も何をやろうかと頭を悩ませていたら、メンバーのひとりが「弦楽五重奏をやりたい」と言い出したので、難しいかも知れないけどマニアックにモーツァルトのg-mollとメンデルスゾーンの2番を選びました。
メンデルスゾーンは何度か弾いたことがありますが、モーツァルトは初めてです。
K.516ですから後期の作品になりますね、g-mollというと交響曲第40番K.550も同じ調性ですが、第1楽章が交響曲が2/2のMolto allegroという疾走するような感じに対して、弦楽五重奏は4/4のAllegroなのでそこまで速くなく、答えを求めてさまよっているように感じます。しかもヴァイオリン2本とヴィオラ1本の上3声だけで開始されるので、より不安定です。第2楽章も同じくg-moll、苛立った気持ちを表すようなイレギュラーな不協和音と強弱のメヌエットと、静寂で穏やかなG-DurのTrio 。第3楽章は弱音器をつけてのEs-Dur、部屋の中(僕のイメージでは病室)から遠くに見える楽しそうな人達をそっと見つめている、いつかは自分もここを抜け出して外に出たい…そんなイメージが湧いています(今のところは)。で、重苦しいg-mollの序奏の付いた第4楽章は、主部で一転してG-Durに変わり楽しく各楽器が踊り廻っている。ハッピーエンドで良いのですが、どうもこのG-Durが曲者で、すごく寂しく聴こえてしまうんです。特に終わりは、「楽しい一時をありがとう、みなさん、さようなら」と言っているように感じます。
同じ感覚はピアノトリオG-DurのK.564の終楽章で、より濃くなっている。
でもアイネクではそんな感じがしないので、一概にG-Durだからと括ってしまうのはいけませんが、モーツァルトのG-Durってそんな感じ、しませんか?
◆11月8日《古楽の秋》
11月8日、横浜みなとみらいホール(小ホール)で、「古楽の秋」と題する演奏会に参加しました。
1日でバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの3つのプログラムをやってしまうなんとも贅沢な、やる方にとっては過酷な演奏会でした。
午後12時開演 バッハの華と雅
バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV.1068
2つのチェンバロのための協奏曲 ハ長調 BWV.1061(渡邊順生、崎川晶子,Cem.)
カンタータ「私は満ち足りている」BWV.82(小笠原美敬,バリトン)
2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV.1043( 竹嶋優子, 渡邊慶子、Vn)
午後3時開演 モーツァルトの愛!
モーツァルト:フルート四重奏曲 ニ長調 K.285( 朝倉未来良、フラウト・トラベルソ 荒木優子,vn.深沢美奈,va.西沢央子,vc.)
ピアノと弦楽器のための四重奏曲 ト短調 K.478(渡邊順生,Pf. 林智之,Vn. 花崎淳生,Va. 花崎薫,Vc)
ピアノと管楽器のための五重奏曲 変ホ長調 K.452
(渡邊順生,Pf. 本間正史,オーボエ 岡本正之,ファゴット 坂本徹,クラリネット 塚田聡,ホルン)
午後7時開演 ベートーヴェン、崇高なる饗宴
ベートーヴェン:ピアノと弦楽器のための四重奏曲 変ホ長調 op.16(渡邊順生,Pf. 林智之,Vn. 花崎淳生,Va. 花崎薫,Vc)
チェロ・ソナタ 第3番 イ長調 op.69(花崎薫,チェロ)
ピアノ協奏曲第4番 ト長調 op.58
渡邊順生,指揮、チェンバロ、フォルテピアノ 朝岡聡,お話
ザ・バロックバンド
それぞれに朝岡さんの軽妙なおしゃべり(解説)がバロックという難しそうな垣根を取っぱらって、とても親しみやすい構成になっていました。
約1週間、楽器もピッチも古楽仕様に替えて、それこそ朝から晩までのリハーサルは大変でしたが、 渡邊先生の演奏を聴き「こんなアプローチもあるのか」と目からウロコの連続、 また仲間たちのフレキシブルな感性と演奏に普段味わえない喜び、楽しみがあり、僕にとって幸せな時間でした。
夜9時20分ごろに全ての演奏会を終え、横浜から埼玉まで寝て帰ろうと思っていたのにハイテンションで、一睡もできず帰宅。ビールを飲んで早く寝たら、夢でベートーヴェンがずーっと流れてて夜中に何度も起こされ、気がついたら朝を迎えてました。
音楽の力って凄いなと改めて感じました。
◆11月1日《ラ・ラ・ガーデンコンサート2008》
忙しかった10月もどうにか気力で乗り切り、11月1日は恒例の雫石ラ・ラ・ガーデンコンサート。今年は「最後のソナタ」。ピアニストに三宅麻美さんを迎えて、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第10番とショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタに、ミヒャエル・ハイドンのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ第1番というマニアックなプログラムにも関わらず多数のお客さんに来て頂き感謝です。
ミヒャエル・ハイドンの二重奏曲は、モーツァルトの二重奏曲を生み出すきっかけにもなった作品です。本来ザルツブルクの宮廷から6曲の作品を依頼されていながら、ハイドンが4曲まで仕上げたところで病気になってしまい、たまたまウィーンからザルツブルクに来ていたモーツァルトに残りの2曲を替わりに書いてもらって、事無きを得たというエピソードがあります。モーツァルトの二重奏曲は言うまでもなく傑作ですが、ハイドンの方はと言うと、その当時にはピッタリだったんだろうけど、時代が移るにつれて我々の生活がどんどんかけ離れていったために取り残されてしまった感があります。
第2楽章はホントにゆったりとした時間がいつまでも続くような感じだし、両端楽章も劇的な変化には乏しい。その分、リラックス効果は高いとは思いますが、もうちょっと刺激が欲しいです。
ベートーヴェンの10番は最近、特に好きな作品です。9番までとガラッと雰囲気が変わり、大人の余裕、落ち着きのようなものを感じます。そしてそれまでも素晴らしかった緩徐楽章がよりシンプルに、凝縮されています。この曲を選んだきっかけはピアニストの三宅さんがやりたい!の一言で決ったのですが、彼女(実は大学時代の同級生)と一緒に演奏できて、とても楽しかった。是非他の作品もやってみたいです。
ベートーヴェン全部とか、ブラームスとか。
また新しい企画を考えないと…。
写真はラ・ラ・ガーデンから見た岩手山、山頂付近は雪に積もり出しました。